失敗しない業務の兼任 〜兼任しても良い業務としてはいけない業務について〜

本業と副業であったり、あるいは本業の中での複数の業務であったり、仕事をしていると業務の掛け持ちというのはいずれ発生してきます。

それは自らの希望である場合も、組織の都合である場合も存在しますが、これが一度発生すると、以降複数の業務に対して自分のリソースをどう分配するかに頭を悩ませ続けることになります。

私自身、これまで幾度となく業務の兼任は経験してきましたし、その中でうまくいったものもあれば、失敗したものも勿論あります。

この記事では、そんな自分の経験を思い出し、私ならの業務の兼任に対しての結論について述べたいと思います。

兼任しても良いたった二つの業務

結論から言うと、兼任しても良い業務は、その片方が「プロジェクト型の業務であり、短期で完結するもの」または正反対の「期日などが厳格でなく、ベストエフォートでのコミットが許容されるもの」のみであると考えています。

そして多くの業務はその構成員全員が 8*5=40 時間を常にかけることを前提として設計されています。そのため、プロジェクト型の業務でもなければ、ベストエフォートが許容される業務でもないはずです。つまりはほとんどの業務は兼任すべきではないのです。

次以降、その理由を説明します。

兼任が発生する事情について

そもそも兼業というのは、供給不足と過度なリソース最適化によって発生します。

大きな規模の組織においては視野を広げるためやプロジェクトを跨いでの経験を増やすためなど意味合いもでてきますが、それらは適切なリソース管理のもとベストエフォートでのコミットが許されていることがほとんどです。

殆どのシチュエーションにおいて、主務となる業務が落ち着いているタイミングで、残っている余力のリソースを他の業務に割きたいというモチベーションや、本来は完全に異動させたいが完全に穴を開けるわけにはいかないために一時的に兼務となるようなことがほとんどでしょう。

どちらも理想と現実をうまく引き合わせた最適なリソース配置に見えますが、安易な兼任は多くの場合に崩壊します。

安易な兼任がもつリスク

たとえば現状フルタイムでプロダクトAに携わっている場合。その中でプロダクトAの業務はその実績から 80% 程度の稼働量で十分すべてをこなせる状態となっています。

こういったシチュエーションであれば、残りの 20%、つまりは週 1 日であれば他の業務を定常的にアサインできるように見えるでしょう。そんなとき、喫緊でしばらく週 1 日相当の増員があれば十分に回ると思われるプロダクトBの案件相談がありました。

このときにプロダクトBを案件を担当することは、一見してリソース効率を最大化させつつ、どちらのプロダクトにとってもメリットがあり、また自身にも成果を最大化できるため合理的な選択に見えます。

ただここには 2 つの罠があります。

1 つはプロダクトAのリソース要求がその状態で安定することはありえないためです。これはプロダクトやチームの状況に限らず必ず訪れます。

例えば技術的な側面であればインシデントが発生した場合、事業の都合であれば、メディア媒体への掲載に合わせて確実にこなすべき案件の浮上など。やむを得ない事情により、100%の出力を出さない限りはなし得ない作業というのはどこかで発生するでしょう。

こういったときに、本来は残されていた余剰リソースが食い尽くされてしまっており、一方でプロダクトBから撤退することもできないような状況が発生するリスクを抱えています。

2 つ目はその兼務先は殆どにおいてさらなるリソースが要求されるということです。

20% 程度のリソースであっても要求するプロダクトは、概ねリソースが潤沢でありコミット量の少ないメンバーを受け入れる余裕がある(前述のベストエフォートが許される)ものであるか、正反対のあまりにも忙しすぎて猫の手でも借りたいような状況のいずれかであるはずです。

前者の場合は幸い、問題は起きません。非常にありがたいことです。しかし一方で、後者だった場合はどうでしょうか。

もし自分が活躍するとより多くのコミットを要求されるでしょう。また、本来は兼務先であるにも関わらず、主務のコミットの変化を許容されるとは限りません。

異なる2つのプロダクト内においてフェアに優先度をつけることは非常に難しく、それが所謂炎上している状態に近いプロジェクトであれば、その天秤は都合の良いほうに傾くでしょう。

そうなった場合、待ち受けているのは本来は負うはずのなかった不義理のレッテルか、あるいはオーバーワークです。どの組織でも適切なエスカレーションによっていずれは解決するでしょうが、それが1日なのか一週間なのか一ヶ月なのか、はたまた一年なのかは様々です。

これらのリスクを総合的に見積もって、個別に可否を判断することは困難でしょう。

兼業が失敗する要因

そのため、問題の本質となる要素を考えてみます。

ざっと2つの問題を俯瞰してみたときに「どちらかが想定以上に忙しくなった」タイミングで破綻していることが見えてきます。それもそのはず、これまであったはずの余剰リソースがすべて消えているのですから。

そう考えると、以下が発生するような業務は概ね NG と言えます。

  • 主務側
    • 他の人含めてリソースが 100% に近く、兼務の短期的な多忙すらも許容できないケース
    • リソース自体に将来の不確定要素があり、場合によっては余剰を食い尽くす余地があるケース
  • 兼務側
    • 本当はもっと稼働してほしいけど妥協で兼務を承諾するケース
    • すでに炎上に近く、常に動く追加リソースとして兼業先を求めているケース

これらはいずれも少しのイレギュラーにおいて破綻するため、もし相談されても承諾するべきではないといえます。完遂できなかった場合、過剰なリソースを要求したほうではなくそれに応えられなかったほうが信用を失うこともあるため、自衛としても選択肢に残しておくべきです。

兼任しても良い業務

では逆に、兼任が問題ない業務について考えてみます。

冒頭に2つの業務を挙げましたが、それぞれどのような理由から兼任が許容されるのでしょうか。

プロジェクト型の業務が兼任しても良い理由

プロジェクト型の業務は、ゴールが明確であり、短期集中で完結するという特徴があります。私の実際の業務で言うと、 UIT Meetup なんかはこれにあたるでしょう。

こういったタイプの業務は業務の特性と同じく、自身のリソースを短期集中で投下することで業務が完遂しやすいという特徴があります。つまりは主務となる業務進行において、普段はその存在を無視できます。

その上で主務に影響が出るタイミングも明確です。事前にどの程度のリソースがどのくらいの期間で必要となるかが周知されているため、業務の調整も行いやすい状態にあります。

通常の業務の中でも休暇であったり出張であったり、メンバーがしばらく不在となるケースは専任の場合でも発生するでしょう。プロジェクト型の業務であれば、想定した工数を逸脱することもなく、そういった短期の不在と同様に扱うことができます。

総じて予想以上に忙しくなることも、突如リソースが必要となることも少なく、折り合いをつけやすい業務であると言えるでしょう。

こういった業務であれば、影響は軽微であり、両立可能と言えます。

ベストエフォートの業務が兼任しても良い理由

また、プロジェクト型の業務とは真逆の「期日がほぼ決まっておらず、かけるリソースもベストエフォートで良い」タイプの業務もあります。私が関わっているものであれば、副業の執筆業などはある意味これに当たるでしょうか。

開発に関連するもので言えば、開発環境の改善やリファクタリング、技術のアップデートやそのプロダクトのための内製ツールの開発などが挙げられます。

こういった業務は業務委託であったり、あるいはアルバイトやインターンのメンバーが担当することも頻繁にありますが、それはなぜでしょうか。

おそらくほとんどの場合、最低コミット量が0であることを前提とした業務設計がなされていることが理由となるはずです。

この類の業務は完遂できた場合にリターンが高い一方で、結果がゼロまたは途中までのアウトプットであっても一定の恩恵を受けられるため、いつでも業務を一時的に、または無期限で中断することが可能となっています。

そのため、主務が忙しい場合には最低限のコミュニケーションコストのみでリソース配分を調整できると言えるでしょう。

主務側と折り合いをつけて短期的な穴を許容するプロジェクト型業務とは対照的な解決方法ですが、こちらも兼務しても問題が起きづらい業務であると言えます。

兼務を検討するポイント

上記を踏まえた上で、兼務をすべきかどうかを判断する基準はたった一つだけです。

それは「主務/兼務のいずれかが多忙になった場合、もう片方のコミット量の調整が効くか」です。 特に兼務の結果主務のコミット量が著しく低下することは全体として大きな問題を起こしやすいため、その点を重点的に見ると良いでしょう。

もし判断に迷う場合、今回紹介した「プロジェクト型業務」に属するか「ベストエフォート型業務」に属するかで判断してしまっても、おおよそのケースにおいて間違いはないでしょう。

その上で自分の中でより精度の高い軸が出てきた時、必要に応じてチューンすることも望ましいはずです。

おわりに

ここまで話してきましたが、私自身その全てを実践できているわけではありません。

組織内において誰かがベストではない兼任の形をとる必要があるシチュエーションは存在し、中長期的には解消を図りつつも、短期的にはその状態を受け入れるしかないこともあるでしょう。

重要なのはその兼任が良い形であるかどうかを、自身が理解していることです。 状況を理解していれば改善策を考えられますし、改善策を考え続ければ、いずれは実施できるはずです。

もし目の前の多くの業務に追われているのであれば、どこかで棚卸しだけでもしてみると、改善の一歩になるかもしれません。

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