ソフトウェアエンジニアが所属組織の採用イベントに参加する大きなメリットについて
(以下、本文における「エンジニア」はすべてソフトウェアエンジニアのことを指します。)
私はエンジニアが所属組織の採用イベントに出演することにはかなりポジティブな作用があると考えています。もちろんそれには明確な理由があるのですが、それがなぜなのかをアウトプットしてこなかったので、試しに書き連ねてみることにしました。
なお、採用に関する情報をオープンにしない組織も非常に多く存在するため、あくまでも閉じた範囲に限定せずオープンにしている組織のことを前提とします。
採用イベントと技術イベントについて
「採用イベント」と一口に言っても、エンジニア向けの催しには直接的な採用へのコミットを意識したイベントと、中長期的を見据えての接触機会の増加や組織のブランディングを重要とした技術イベントの2つがあります。
前者は採用説明会などと呼ばれることが多く、後者は Meetup や Tech Talk などの名称で開催されている状態。運営も人事主導で組織長などに話が回って運営されるトップダウン寄りの取り組みであることが多いか、エンジニアたちのモチベーションから生まれているボトムアップな取り組みであることが多いかの違いがあります。
今回は前者を採用イベント、後者を技術イベントとして明確に切り分けて話してみます。
技術イベントに登壇する意義とそれだけでは得られないもの
エンジニアという生き物は採用イベントは億劫であると感じる一方、技術イベントであれば出ても比較的参加にネガティブな印象を持っていない層が多い印象を受けます。
深く考えないと単純に「スペシャリティを持っている領域だから関わるコストが低いから」と結論づけてしまいそうですが、実際に要素を分解してみると、それに限らず以下のような要因があるはずです。
- 行うべきことがはっきりしており、かかるコストのオーバーヘッドが少ない
- 例えば突然「採用イベントで話してください」と言われても、抽象的なことも増えてなかなか話すネタを考えきれない部分を多く感じていることでしょう
- 組織における成果を個人と結びつけることができる
- 公言することが禁じられているわけではないが、基本的には組織に属しているときに行っている活動を個人で語りすぎるわけにはいかない
- (特に転職などを考慮したとき)業務で行った成果が自分のものであると、会社オフィシャルの場で資料として残すことに価値が出てくる
- 個のプレゼンスの向上
- 組織に紐付かずとも、個人として能力が世に認められるほど、市場においては有利となる
概ねこのあたりであり、何れも「自身が行うことがはっきりしており、それが直接的な利をイメージしやすいから」かと考えられます。これらはすべて事実であり、個としてのエンジニアのスキルを自組織・自身と市場との間でキャリブレーションする良い機会となっています。
その一方で、技術イベントで得られるこれらの個人への利はイベントという枠組みの中では限定的であることは意識しなければなりません。これによってアピールできるのはあくまでも「同業者への自身の技術能力の開示」以上でも以下でもない状況であるということ。
エンジニア組織主導で行っているイベントにおいて、エンジニアが他のエンジニアに向けて技術的なアウトプットを行うことは、個人の目で見た利としては、休日に書いたコードなどの技術的アウトプットが見られることと大差ない状況となります。
つまりは、登壇するあなたのバリューについてリーチできる層が限られているということです。
採用イベントがつなぐ信頼というファクターについて
一方採用イベントというものは、一見コストも高く、ターゲットもある程度ふわっとしている印象があり、総じて気が重い仕事という印象を受けるのではないでしょうか。しかしながら、その事実こそが本人の予想だにしない価値を生み出している事実があります。
冒頭にも述べたように、組織としてオフィシャルな「採用説明会」や「組織・ポジション説明会」を行う場合、その実施には多くの関係者が含まれます。
技術的な取り組みであれば、考えや行った行動は「チーム」や「個人」への印象へと還元されることが多いですが、採用の取り組みはまさに「発言が組織を代表する」状態となります。
そのため、実施に関するステークホルダーも、出演者の選定は一定以上シビアにならざるを得ません。つまりは自然と「組織を代表して発言するだけの品格と能力」を持っている人が選定の前提条件となるわけです。逆に言えば、組織に所属していない社外の人間からも、そういった品格と能力を持ち合わせている人間として見られることとなります。端的に言うと、それだけで「人間的に一定以上信頼できること」が担保されることとなります。
いわゆる「Web業界」と呼ばれる、Webを冠しながらアプリ開発者なども一緒くたに入っている愛すべきカオスな括りの中で近頃話題な「中堅エンジニア」というワードが表すように、各社ダニング=クルーガー効果による非常に長い自信の低下を超え、信頼できる人材を求めだしていることは事実です。
採用イベントに開発者が参加することは、人事側のステークホルダーが品格を、エンジニアリング側のステークホルダーがその能力を認めていることに他ならず、自然と市場が求めている人材要件に合致していることを意味します。つまりは自己評価や一面だけを見た断片的な評価ではなく、多面的に見てその人間が信頼されている・信頼しうる人物であることを表します。
つまりはいち開発者として横並びの立場から見られることも多い技術イベントでの実績と比較して、よりレイヤーが高く、責任のある立場からみた市場価値を向上させていることになります。
なので一見専門職に対して専門的な話以外を交えた機会の業務をさせるという非合理的な取り組みで食指が動かないかもしれないですが、もしあなたがその機会を得ているのであれば、そのチャンスは生かしたほうが良いと考えられます。
リファラルの色も日に日に強くなるこの業界で、最も重要な信頼を非常にローコストで獲得するための手段の一つとなっています。
そのため、運良く得られることがあれば、その機会を逃すこと無いよう、上記のような「いち開発者同士以外からの見え方と市場価値」も意識してみるとより有意義な挑戦になるかもしれません。
おわりに
最近自分のチームのメンバーが採用イベントに出演することが増えてきて、快諾しているもののその真意について明文化したことがなかったのでしてみたのがこの記事を書くに至った経緯でした。
正直ここまで考えずとも出るだけで泊がつくのは事実なので、出演し得な取り組みだと思っているので、自分のチームのメンバーにはこれからも積極的に出演して、常に社内と社外での価値をすり合わせつつ、その上でいても良いと思ってくれる間はバリバリ活躍してほしいなと思っています。